台湾で台湾人が歌う日本演歌② 蔡小虎特集

日本の演歌を唄う台湾人男性歌手で、まず第一に挙げたいのが蔡小虎(ツァイ・シャオフー / Cai Xiaohu)。彼の唄う「惚れた女が死んだ夜は」が気に入っている。彼が唄うこの歌を初めて聞いたのは4年前、妻が逝って間もなくの頃だったような…


蔡小虎はこの曲を、台湾語版の「酒杯情」としてもリリースしているが、日本語で歌い上げる彼のステージは圧巻の一言に尽きる。
「小林旭の原曲が持つ『男のやせ我慢』や『無頼なカッコよさ』に対し、蔡小虎のバージョンは、心の底にある悲しみを隠さずさらけ出すような、台湾語歌謡(台語歌)特有の濃密な哀愁が漂います。」とは誰かの評。

蔡小虎は、その圧倒的な歌唱力と哀愁漂う歌声から「台語歌王」(台湾語歌謡の帝王)と称される。日本の演歌ファンをも唸らせる彼の魅力と、日本文化との深い繋がりについて紐解いてみる。

▪ 蔡小虎とは? — 豚肉売りから「歌王」へ
蔡小虎は1962年10月25日、台湾・高雄市の生まれ。デビュー前は実家の家業である豚肉販売を手伝っていたことから、親しみを込めて「猪肉王子」(豚肉王子)と呼ばれていたというユニークなエピソードを持っている。
1991年に、当時の人気オーディション番組『五燈奨』で勝ち抜いたことをきっかけにデビュー。瞬く間にスターダムを駆け上がり、台湾のグラミー賞とも言われる「金曲奨」で最優秀新人賞を受賞。以降、30年以上にわたり台湾歌謡界の第一線で活躍し続けている。

▪ 日本演歌への深い敬愛と関わり
蔡小虎の音楽性の根底には、常に日本の演歌がある。彼は単に歌唱力が高いだけでなく、日本の演歌が持つ「こぶし(うなり)」や「ビブラート」、そして歌詞に込められた「情緒」を完璧に理解し、自身のスタイルに取り入れている。
 ・徹底した研究:若い頃から日本の演歌を聴き込み、森進一や五木ひろしといった名歌手たちのパフォーマンスを徹底的に研究したと言われている。
 ・日本での活動:実際に日本を訪れてボイストレーニングを積んだ経験もあり、その発音の美しさや表現力は、日本の聴衆からも高く評価されている。
1998年にはNHKの歌番組「アジア歌の祭典」に出演。

▪ 日本演歌カバーの魅力
彼の真骨頂は、何と言っても「日本演歌の台湾語カバー」にある。
台湾では古くから日本の演歌に台湾語の歌詞をのせて歌う文化があるが、蔡小虎が唄うと、それは単なる「カバー」を超え、曲に新しい命が吹き込まれる。重厚感のある低音から、突き抜けるような高音までを自在に操る彼の歌声は、日本語の原曲が持つ「粋」や「切なさ」を、台湾独自の「哀愁(悲情)」へと見事に昇華させている。

最後に再び「酒杯情 / 惚れた女が死んだ夜は」。この動画では歌唱の前に蔡自身が小林旭と美空ひばりのエピソードを語った後に、台湾語の「酒杯情」と日本語の「惚れた女が死んだ夜は」が続く。

この台湾語の語りを日本語に翻訳してみると…
原文          直訳
人家説縁份       人は縁(えにし)と言うけれど
為什麼有縁無份     なぜ縁があって、結ばれないのか
我現在要来説一個故事  私は今から一つの話をします
就是有我們日本     それは、我々の日本に
有兩個非常非常紅的   二人、とてもとても有名な
演歌雙棲紅星      演歌で活躍する大スターがいます
一位是小林旭      一人は小林旭
一位是美空雲雀     一人は美空ひばり
小林旭跟美空雲雀    小林旭と美空ひばりは
原本是一対夫婦     もともと一組の夫婦でした
因為小林旭的父母    しかし小林旭の両親が
不喜歓美空雲雀     美空ひばりを好まなかった
因為太過豪放不拘的個性  あまりに豪放で型破りな性格だから
所以強迫小林旭     それで小林旭に強いて
和美空雲雀離婚     美空ひばりと離婚させた
離婚之後        離婚した後
因為美空雲雀      美空ひばりは
非常非常地愛小林旭   とてもとても小林旭を愛していたので
所以幾乎毎天在這個   だからほとんど毎日、この
新宿歌舞伎町酗酒    新宿歌舞伎町で酒におぼれ
致使搞壊身体      そのせいで体を壊してしまい
十幾年前他就往生了   十数年前に亡くなりました
在住生没多久      亡くなってから間もなく
小林旭就介紹一首    小林旭が一曲を世に出しました
「心愛的女人死去的夜」  『愛する女が死んだ夜』
惚れた女が死んだ夜は  惚れた女が死んだ夜は
這首非常優美的歌曲   このとても美しい歌です
台語歌改成「酒杯情」  台湾語の歌に変えたのが『酒杯情』
請大家欣賞       どうぞお聴きください

翻訳を読んで驚いた。脚色が過ぎる。離婚の理由やひばりの死因は事実と異なり、この歌が発表されたのは1967年、ひばり逝去の22年前のことだった。
台湾の観客の涙を誘うため、夜の巷(ちまた)で流布していた噂話をベースにさらにドラマチックに脚色して語ったものらしい。

〇 小林旭が唄う「惚れた女が死んだ夜は」

(2026.6.5掲/6.7改)

 

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