利根運河のビリケンさんや利根運河大師を追っかけているうちに(注1)、両者の生みの親とも言える利根運河会社支配人･森田繁雄のことが気になってきました。｢森田繁雄｣とは何者なのか？如何なる経歴の持ち主なのか？
《｢千葉県議会史 議員名鑑｣(1985 千葉県議会発行)より》
森田繁雄 (もりたしげお)
東葛飾郡新川村東深井 （現流山市）
明治元年8月13日、高畠平作の二男として群馬県に生れ、後年森田家に入婿して同家を継いだ。前橋小学校を卒業して前橋師範学校に入学、同校を卒業し、訓導として小学校に勤務した。後に東京に出て法律を勉強、そして朝鮮･満州に渡ったが帰郷し、29年に利根運河株式会社に就職しその後商品取引等の事業に投資し、明治末年から大正年間にかけて東葛飾郡新川村で果樹園を開設、松戸町にある県立高等園芸学校や全国各地から新品種を導入してブドウ、モモ、ナシ等を栽培した。収穫期には汽車、汽船を利用して数千梱を京浜市場に搬出した。
大正2年12月の県会議員補欠選挙に東葛飾郡選挙区から立候補して当選し、4年9月まで務め、6年6月再び県会議員補欠選挙に当選、続く8年9月の選挙にも当選して13年1月まで在職して県政の向上に尽くした。その間、政友会千葉県支部幹事となり、10年11月から11年11月まで参事会員の要職に就いた。
県会では主に勧業政策について関心を示した。大正7年通常県会において、県当局が提出した手賀沼に鰻苗を放飼する計画については、｢近来米価騰貴に伴って此の手賀沼付近の者は頻りに耕地整理を急いで居る、多年の懸案でございまして一日も速く耕地整理を竣工したいというようなことでありますが、一方に此の鰻を放養するというような事は耕地整理等に矛盾して居るでは無いかというように非常に危惧の念に打たれて居るように考えます｣と述べ、土地利用の調整に対する配慮を要請した。また9年通常県会では、勧業費中の地方測候所費に関して、農家が測候所の報告を待って作業をすることがない現状から考え、将来は｢此の報告を県の警察部へ報告すると同時に各分署に報告したものを駐在所に報告するようなことで、電話を利用して各町村役場へ示すような方法｣を採ることを提案した。
その他、大正11年通常県会では、銚子漁港築港に関する調査委員会、穀物検査に関する調査委員会の委員に選出された。
地元にあっては、大正13年東葛飾郡新川村長に就任し、10年(?)県山林会評議員、14年県農政協会理事、昭和2年県道路調査会会員等、県内各種団体の役員を歴任して活躍した。
趣味は、銃･刀剣･掛物･道具等骨董品の収集･盆栽･旅行など多彩であった。
昭和4年2月16日死去。60歳であった。
《｢房総町村と人物｣(1918 多田屋書店編纂部編纂)より》
森田繁雄 (モリタ シゲオ)
県会議員、東葛飾郡新川村深井新田の人、明治元年8月群馬県前橋に生る。夙(つと)に満韓の野に遊び、日清戦役に際し、陸軍御用商人となりて活躍し、尋(つい)で利根運河株式会社に入りて今に至る。其間商品取引所仲買店、日本石油製糖会社、特許広告社等を創設、43年県営軽便鉄道の計画なるに、運河駅附近に果樹園を開設し、葡萄、桃、梨を栽培す、今や成果期に達して収穫多大年々収穫期には汽車汽船を利用して数千梱を京浜市場に搬出す。果園の施設完備し、本県模範園たり。大正2年6月夏県会議員補欠選挙に際して当選、大正6年6月夏再び当選現に其職に在る外、今上落普通水利組合議員、耕地整理組合議員其他幾多の議員若(もし)くは委員を兼ぬ。
残る疑問：
(1) 森田家：高畑繁雄が森田家に入婿して同家を継いだ、とありますが、｢森田家｣はどこにあったのか? 群馬県 or 千葉県 or ?
上掲｢議員名鑑｣には森田の住所を｢新川村東深井｣としていますが、この地は森田が開いた果樹園のあった場所で、前は原野だったと記されています。
(2) 利根運河会社入社：群馬県前橋で生れ育ち、後に長じて満韓に渡り商売をしていた森田が、利根運河会社に入社したのにはどのような事情があったのか？
(3) 支配人：森田は会社入社後程なくして｢支配人｣になったというのですが、支配人とは何だったのか？如何なる職務、職位だったのか？
彼は後年｢専務取締役｣になり、これには確たる証拠資料がありますが、｢支配人｣にはそのような資料を見たことがありません。
ビリケンさんや利根運河大師関連の文献では森田の肩書を｢支配人｣とするのがほとんどですが、中には｢総支配人｣や｢社長｣とするものもあります。｢社長｣は誤りと思うのですが、どうでしょう?
[補足]
(注1) ⇨ 利根運河のビリケンさんと新四国八十八ヶ所
(2024.9.1掲)