老いるということ -母の日記から-〈1〉

私の母は大正11年(1922) 8月生れ、平成29年(2017) 1月に94歳5月で没した。
母は二人の子供が家を離れてから永い間父との二人暮らしであったが、平成22年4月に父を亡くした後は一人住い。しかし26年夏に転んで手首を痛め、一人暮らしが難しくなったため、サービス付き高齢者向け住宅(略称:サ高住)(注1)「昂(たすく)の森」に入居することになった。
この日記は 「昂の森」 で過ごした母の最後の一年の記録である。

明かな誤字・脱字を訂正する外は、原文をできるだけ忠実に写そうと思ったが、キーボード入力省力のため、旧漢字・旧仮名遣いは現代用法に書き変えた。

年頭の所感
明けましておめでとうございます
昨年中は色々とお世話になりました
皆々様のお陰様でまた新しい年を迎える事が出来ました
心からお礼申上げます 今年も更にゝゝお心盡しの程よろしくお願い致します
皆様のご健康とご多幸をお祈りいたしますとともに私も皆さんの御心に答えられる様今としこそ明るくたのしくもっとゝゝしっかりとしゃっきりと足許に気をつけながら転ばぬ様にゆっくりと過ごして行きたいと思って居ります。
重ねゝゝよろしくお願い申し上げます。

一年の計画
今年こそ和紙をちぎりたい。一度家に帰って見たい

平成28年(2016)1月  93歳5月
           (残 12月)

1月1日(金)  晴
去年と同様 拓男君のおそばで二人で年を越す 何やら申し訳ないやら嬉しいやら胸いっぱいの気持ち
 ◎ありがとう…
あんたもとしになってるのだから体には呉々も気けて欲しいと願うばかり
夜 紅白歌合戦をみて床に入る
仲々眠に入れない また起きてテレビをつける
何の役ににも立ゝぬことが次々と心に浮んで来た
気分転かんにと着物を着て朝食に出た。やはり着物は、めんどうだ…

[欄外]  誕生日の花  松 黒松、赤松あり  花言葉 不老長寿、向上心
   見事な初日拝むことが出来た  何時まで続くことやら


1月2日(土)  曇晴
朝やっと着もの着終えたところに千代と智子よりおめでとうの電話あり…ありがとう…
今年も無事ですごして欲しいと祈る
昨日に続きお昼の時におくれそうになる ウトゝゝがすぎた
一〇〇才じいさんハダカになって食べていた…何思ってたか笑ってしまう クレヨン持ってきてもらう…
塗ってみよう…力を入れずとも楽にできそうに書けるから…
ありがとう…二日もあっという間に終る 何時の間にやら外は白くなっている。テレビはマラソンでにぎわう 夜のトイレが大事 仕事と思って頑張る…

[欄外] 朝寝のため大事な花言葉きかずじまい…残念
ゴロゝゝしてるのにはやはり和服は不便かも でも帯は腰のしまりがいゝみたい

1月3日(日)  曇晴
昨日の今日に変りなし
マラソン テレビみてすごす。やはり寝たり起きたりでやはり着ものは不便なようである
でも何か改まった気分でシャキッとした感じでいゝ
おせち料理ボチゝゝ小ま切れに出て来てたのしい
今朝は雑煮のつもりか丸いダンゴがお椀に入ってた。なますがスナくてかみ切れない
あんかけあきた感じでのこしてやる
あっという間に三ヶ日この調子ではやがてまた新年がすぐ来そうだ

[欄外] 今日も着物ですごしたが手がくたびれてきた。帯〆がたいへん
   散歩  おさいせん 100円



1月4日(月)  晴
元朝参りとやら デーサービスで行って来る 熊野神社すぐ近いところにあった
荒屋敷に居た頃のお参り思い出してなつかしくお参りしてくる やはり車の乗り降りがたいへんで思ったようには動かなかった。おみくじを引いたら吉と出た。努力しなきゃ縁談はないと出た。まだゝゝお向かえはないというのか
笑ってしまった お風呂上りは何もする気出ず たゞ人様の折紙するのを見て時間をすごして来る 明日からはセーターで楽にいこう…
花びんのお花でも生けなおそうかと思う そして散歩も…

[欄外]  デーサービス  初顔あわせ 家へお正月に帰った人々帰って来られる
   デーサービス始まる

1月5日(火)
暗い日、目が悪くなったかと思う程。
やはり和服が落着く セーターを着てみて改めて思った またゝゝ思い直して上下着もの着てみる
軽くてこれまた気分よし
昼食のメニュー 何だか解らなかったが部やに入って表を見たらゴママヨ和えというものだった それにしてもごまの香りはなかったなあ…
おいしいともまずいとも感じないまゝに頂く…
お久しぶりに広間で二三人とお話しなどしてみる 年が明けたら皆の人々もボケが少し濃くなったみたい
心細く思いやられるが…

[欄外] うめ バラ科 すんだ心  マッサージする
18,250 マッサージ

1月6日(水)
何の変てつもなく朝を迎える ラジオ体操あまり忙しくなく間に合ってなしとげる
下の洗いものヘルパーさんが来る前にと思いながらつい間にあわなかった…失敗 忘れてたかな…
やはり年がふえて手も頭も回りがまたゆっくりということか…
やっと明るくなって来た
今日こそ散歩に出たいけど…
まず着ものゝ整理でもしましょうか やはり寒そうだ
しきりと思われるは雪のない正月の我が家の庭の草など目にちらついて来る。春みたい

[欄外] 買いもの 雑か 3,837

1月7日(木)
七草粥頂いて七日正月も終りとなる。運動サッカーには加わらず見ていた。見るだけでかたがこった感じになった。
風呂に入って後何もする気出ず たゞボーと見つめて時間を過ごす 脚何時になくつらい 足の張りにカイロなど張って和らげる 昔の思い出は小学生の頃だったろうが二人で本家にお年賀に行きお年玉は一〇銭だった事とか…親から聞いた事もあまりない。思い出はたのしく夜までも続く 石直さんの

[欄外] デーサービス  気が重く痛い足を引きずって着物で出る…
七草粥いたゞく

1月8日(金)
年の始めに一番外にでてみた
室内で考えていた様な陽気ではなく寒さ身をさす。一廻りしてハーゝゝの思いに中に入る やはり温かさの違いを思う…
石崎さんに年賀のお礼お返しして、まず安心…秋子に電話繋がらず気になって仕方なく拓男にデンワしてお礼たのむ それゞゝの考えで思いは色々 無事で居るとは思うのだが…余計なお世話と云われるだけか…
 子の小言 新しい年グッと 我慢する

[欄外] ぐっと寒い 朝、ラジオ体操も そこそこ忙しい
   歩く

1月9日(土)
夜中に目がさめて朝寝込む
食事の時間までが忙しい思い やる事なす事はかどらぬ…
何年振りかで三と黄門さまのテレビ見て笑う
食堂での二言三言の言葉がおつむをさます。
今日も外に出てみようかな
野菜を切ってお新香つくってみる。手がつかれる でも何か出来たと思う感じ。土曜日とあってホームの中は何となくしずかな様子…
思い切って外に出て見たが寒さ身にしみてまだ無理みたい

1月10日(日)  晴後曇
今日から相撲始まる。拓男にデンワして少しは心落ち着く 新雪で外は真っ白…やはり冬はこの景色落着く…作った新香食べて満足…大根一番美味しい…
何か新しいものをと思っても仲々見当らない。
久し振り階段上り下りためしてみた。三階まで上って冨沢さんたちとお話してみる
内容はきまって四方山(よもやま)話し ストレス解消になったかな
夜はぐっすり?眠る…間違って三階までエレベーター上る…
今日も暮れてまたあした…


1月11日(月)
デーサービス 例によって例の如し
夢に主人九一が出て来たが相変わらずのか目(寡黙?)の顔で何も生前と変わることなし 残る事も云わず いゝ思い出につながらずすぐ忘れてしまった
夜の歌・チャンピオン大会は意外と面白く終りまで見る
マッサージ少し強かったかなと思われたがぐっすり眠れました
有難う…
福盛田久子さんより電話あり 元気そうで安心…物置をこわしたとか…あたりがきれいになったみたい…

[欄外] デーサービス 気が重くつかれる みづきダンゴづくり


1月12日(火)
少し歩いてみる。足の調子何時もの通り…
半分寝てくらす。夜もぐっすり
秋子よりハガキ着く。何よりたのしいハガキでもあるし色々思いをする便りであり楽しい…
心配することは無いと改めて思いを安心する
ガラスから眺める外の景色はまた何とも寂(?)い
あゝ花巻の家に帰りたいなあ…と云ったとて、この体で致し方なし
隣り近所の人々が見えてくる 声がきこえてくる

[欄外] ラジオ国会をきいていた いい天気に気分よし

1月13日(水)
針など持ってみる また糸が穴に通った
目が曇ってくしゃゝゝだけどこれで少し自信がついたかんじ
袖の丸みがむずかしい。でも縫った 仕上げたあとはたのしい。少しやったの思いがたのしい いつまで縫えることやら…
着てみたくなる…
どの着ものにあわせるかと思うとこれまたたのし。何時のひにか必ず(家から)持ってこようと思う
あれこれ考えて時間をついやす
ホームシック、天国シック あゝもうたまらないよ…

[欄外] こちょうらん 幸福がとんでくる  昭和天皇巡幸 あっそう


1月14日(木)  晴のち曇
鏡びらきの餅 きなこと砂糖で美味しく頂きました
お昼食はそのせいかあまり食べたくなくお肉のおかずのこす。
お風呂から上ったら何もする気にならず パズルに手を出して見たが頭ボーとして、目がかすんでその気になれず
ケンさんとやらに手伝ってもらい出来たことにしてもらう
夜は早く寝たらトイレにばかり起きて忙しかった

[欄外] デーサービス 例によって随分つかれた 足ボキボキ

1月15日(金)
昨日の今日で何やらゆっくりしたかんじ 何時まで続くか解らないけど…長野のバスの事故のことなど思う時、明日をも知れぬ今日の事など考えさせられる
何か新しい事と思いながら何事もなく無事終る 袖丈つめたり自分としては何か出来た思いで安心する 外はまぶしいお天気で出て見ようかと思うのだが昼食後石直さんとお話し あのじいさんも耳が遠いみたいで話しが半分しか通じないみたい
相キ(?)さん夫婦お部やに迷って二人でうろゝゝ 異様に見受けた?

[欄外] 買ものたのむ 花カゴさん  お花は無かったとの事…またの時頼みます
   パン 360  買もの 1,880

1月16日(土)
活動着の袖なおす
始めれば終るのに仲々にやる気にならぬ
足つってやり切れない

[欄外] 努力してこそ運が向いてくる 運のいゝ人は努力した人

1月17日(日)  雪降り
大河ドラマ幸田丸とやらに心してみる。
見ごたえあってたのし。
外は雪…昔々の子供等の受験の頃など思われて若かった頃がなつかしい
ホームシックならぬ天国シックなどとかく雪の日はゆううつ…
歩こうと思っても空回りばかり、今日も歩かずじまい…
お新香漬けて食べてみたが塩分が気になる出来映え
胃のあたりがおかしい またゝゝ降る雪に益々心が重くなる。
何かいゝこと探さなきゃ…

[欄外] 昨日の今日に変わりはなし。毎日の様に変わりなく過ごすさ

1月18日(月)
今日はデーサービス 随分と歩いた 準備体操が効いたみたい つかれひどい…
入浴後は手にむち打って節分の鬼とやらに色をぬる
思いの外これも指にきて後が痛い…
股がつって切ない 体重減って、よろゝゝ こんなに気をつけて食べてると思ったのに
塩分の取りすぎに要注意
外は吹雪く 部屋の中はポカゝゝ
眠くなる。ベッドの廻りの片づけに忙しい。でもやっと出来たかな?

[欄外] 全国的に雪降りニュース  〆縄はずして正月気分から去る  やがて春近しの思い…

1月19日(火)  雪
久し振り足のつりに苦しむ
マッサージしてもらう
お部屋の掃除と洗濯ありがとう
ながい間眺めたすゝき やっとの思いで捨てゝもらう
生花のない部やは淋しい 外は雪、中はドライフラワーは淋しすぎる
何か生花が欲しいところ。
何にしようかな この次に買ってもらうことにする 花やさんに行けたらいゝのになあ…

[欄外] 雪 一日中降り続く  交通事故ニュースでテレビ忙し
   伊藤さんに掃除してもらう  さっぱり  有難う

1月20日(水)
目がゴロゝゝし気になり急に思い立って 眼科に行ってくる。
早速にみて呉れて十一時までに帰って来られた。
皆様のお陰で先に見てもらえた。有難う。
炎しょうを起してるとやら…
生きてる中は眼だけは大事にしたい…
明るくみて居たい 暗やみの世界は息のしてる中はなりたくないと思うのだが…

[欄外] 眼科にいってくる  やはり外出はつかれる


1月21日(木)
調子 何時もの様にいかぬ
フラゝゝ風邪ぎみかな…
風呂も休む。食事持って来てもらって食べる。
やはり楽な方がよくなってくるから要注意…
靴下ぬいで寝てみた…この方がすべりも血の廻りもいゝかんじ…寝起きが楽な方がトイレにも楽に起きられるかんじ…

[欄外] デーサービスのベッドに始めて寝る…何だか落着かぬ

1月22日(金)
ケアマネさんと暦持って来たついでにお話し。大笑い たのしかったよ ありがとう
お話しもつかれるがやはり一人こもっているよりはましだ…
四方山(よもやま)話しに花が咲いて年を忘れて大笑い。
小春日の様な暖かい日射しについうとゝゝ 足の指に痛みあり
靴下ぬいで寝たら楽な様な気がする
朝もう六時になっていた 忙しい思いして食事に出る…
パンを持つのもだるくて大変

[欄外] 昼食は広間 何となくゆったり

1月23日(土)  雪のち晴
〇雪とかし  体をぬぐう  仕掌(しあわせ)を知る
〇街中の橋りょうの下に  ボールを投げる  子等にはひみつの下でも  あるか
〇わずかづつ変る赤子の顔立ちに  親達の名を口々に云う
〇庭先のビワの花大樹の咲く花明り  保育園児の帰り行く道

[欄外] 高峰ケーシーのまんだんに大笑い

1月24日(日)
調子悪くねたり起きたり
どこもかしこも痛くて歩く気にならぬ
目がゴロゝゝ気になるが…

1月25日(月)  晴後くもり
皆のやってるのを見るとその気になって、仲間に入って見たが後(うしろ)がこわくて大変―
体力の程を知る…
朝の月は格別に美しい
寒さもピークで春は目の前…
何時まで続くぬかるみぞ…

[欄外] デーサービス半日で欠席(早退)  体のだるさにたえかねる

1月26日(火)
朝早く目がさめたのでダンボール利用色々とやってみる。
結構いゝ利用小もの入れが出来上った。二時から四時半までかゝった また昼が眠くなることはたしか 仕方あるまい…か
時は間違いなく明日になる

[欄外] 三角(スミ)草  雪わり草  (雪の下でも咲く)

1月27日(水)  晴
何の風の吹きまわし…
思いがけなく石直じいさんからたくさんの果ものやら頂く…
お返しが頭を痛める…
大きな袋を開けて見たらびっくり
やはり年よりの頭は並通ではないと思う…この頭がおかしいのか…何だか解らなくなる  今朝も入歯入れて置きながら見えないと探してあきれる
ボケた自分にしっかりせんかと云い聞かせる。おだやかな春を思わせる日差しに午前午後眠ってばかり。また今晩も夜が永くて眠れぬことかと思いながら頂いたまんじゅう、干柿、ほしいも食う

[欄外] きんかん  思い出 中国から入る 子供の頃かじり 味わった思い出がある

1月28日(木)
おやつの後拓男見えて中退して部やに戻る。
何時もの顔で変りなく来てくれた。毎度有難う。
あしたの打合せして家の方に帰ってもらう
寒さの折何かにと気をつけてと祈る。
押切ツヤとはヨスケドの人と久子さんに電話して知る  元気なお声にこれも安心する
またねとデンワ切る

[欄外] デーサービス

1月29日(金)  曇
高木クリニックに行く…
ガラ明きで早く診てもらう事が出来た…
古川スミちゃんにお久し振りにあう…あの人の顔にもつかれが見えて色々想わせられる。
ジョイスで買いものゝ後食堂で珍しくヨモ子さんとお逢いし色々たのしくお話しして来る
買いもの車の中に忘れて帰ってしまわれ 今日の役には立ゝずじまい。何やら頭がおかしくなった感じ おしゃべりすぎたかんじ
つかれた割には寝つきもよくなかった

1月30日(土)
昨日買って車においた品を拓男持って来て呉れる。
若年にんち症など考えゾッとする思い…
「タウン矢沢」とやらに拓男の書いたものなど読んで やれゝゝと安心する 何時までも元気でいてくれと改めて願う
体も心もしっかりと祈るばかり。

1月31日(日)
漬ものなどして一日何時もより動いたかんじ…
大根半分切っただけで手がくたびれる。
大事にしなくちゃと痛感
味を見ながら塩分過多のかんじ…要注意…
舌がビリゝゝするから、…
水分をとる。脱水(かくれ)に注意…頭・胃・筋肉とやら
水を飲もう…
何か空しい日曜日の午後ではあった 帰った後だからかもネ

[補足]
(注) 冒頭の顔写真は平成26年(2014) 8月、サ高住「昂(たすく)の森」に入居した直後の母。92歳
  文中2枚の写真は母が自宅で独居中にものしたちぎり絵
(注1) サービス付き高齢者向け住宅:略称 サ高住。国交省・厚労省が共管する「高齢者住まい法」の基準により登録された高齢者向けの賃貸住宅。サ高住自体が提供するサービスは安否確認・生活相談サービスと食事提供だけだが、訪問介護・デイサービス等の介護サービス事業所を併設している場合も多い。

(2020.3.26掲)